Print this Post Article Lists Back

誰かがあなたの子供を狙っている

 わずか5歳の幼稚園児だったキム・ユンジちゃん誘拐殺人事件は、ややもすれば迷宮入りするところだった。ソウル・東部警察署が事件発生18日目にチェ・イング容疑者(40)を逮捕したのは5月29日。容疑者はキム・ユンジちゃんと同じ地区に住む「平凡な工員」だったことがわかり、より大きな衝撃を与えた。

 容疑者が検挙された翌日、国内のテレビ・マスコミは、米国テキサス州のある郡で繰り広げられている論争を大きく報道した。テキサス州コパース・クリスティ・ベイ郡の判事が、5月18日釈放された性犯罪者に対し住居地と車に自らが性犯罪者であることを記したサインを付けるように命令したのだ。これ以降、米国の全地域で性犯罪者の人権保護の限界をめぐり論争が起きているという内容だった。テレビでは実際に一戸建ての入り口に「性犯罪者居住(Registered Sex Offender lives here)」という立て札が立てられている様子を放映した。

 キム・ユンジちゃん誘拐殺人事件の捜査段階で、警察は周辺に住む40代の独身男性に注目していた。検察が把握したソウル・中浪(チュンラン)川周辺にある城東(ソンドン)区ソンジョン洞一帯の40代以上の独身男性は120人。警察が彼らの前科を照会した結果、未成年者の性犯罪の前科がある者は4人だった。警察はこの4人を容疑者線上に上げ、彼らの行動を追跡した結果、一人に絞り込んだ。そして、ついに容疑者を検挙した。彼がチェ・イング容疑者だった。

 キム・ユンジちゃんが失踪した中浪川の土手からチェ容疑者の家まで直線で50メートル。警察によれば、チェ容疑者はキム・ユンジちゃんを半地下の部屋におびき出す過程でアイスクリームを買ってあげ、麦茶を飲ませてあげたという。チェ容疑者は性的暴行を行った後に殺害したと警察はみている(警察は司法解剖の結果性的暴行を行った痕跡があることを明らかにしたが、チェ容疑者はこれを否定している)。

 チェ容疑者は1997年11月末に4歳の女の子に強制わいせつを行った容疑で2年6カ月の実刑判決を受けて服役、2000年7月に出所した。チェ容疑者は最近までプラスティック工場の工員として働いていた。性犯罪は、ほとんどが性犯罪の前科者が繰り返される点を考えると、キム・ユンジちゃん殺害事件はいくつかの面でやりきれなさが残る。

 警察によれば、性犯罪の前科者は普通の人と同じような生活をしながらも、その地区に住む女の子をみると犯行対象として考えるという。被害者である女の子は性犯罪の前科者という事実を知らないまま、ただ知らない人ではないという理由で警戒もせず、「同じ場所に住むおじさん」として接してしまう。性犯罪者はこの点を悪用して、子供たちをおびき寄せるのだ。結果的に、われわれの子供たちはいまこの時間にも再犯の危険性が高い犯罪者の前に無防備に放置されているかもしれない。

 米国の50の州は「メガン法(Megan's Law)」を採択している。前に紹介したテキサス州のケースは、この法から一歩進んだ状態だ。「メガン法」は1994年末にニュージャージー州で通過した法であり、服役や治療を終えて釈放された性犯罪者は、自分が住む所の司法当局に居住地を知らせ、司法当局はこれを学校と家庭に通報するように法制化したものだ。

●大部分は同一犯

 「メガン法」は1994年、ニュージャージー州で7歳の女の子・メガン・カンカちゃんが自宅の向かい側に住んでいた性犯罪の前科2犯の者によって暴行・殺害された事件をもとにして制定されたもの。性犯罪者が最も多いカリフォルニア州には「メガン法」によって7万人の性犯罪者が登録・公開されている。50州の司法当局は彼らの名前、居住地、電子メールIDまでインターネットに公開し、父母たちが周辺に性犯罪者が住んでいないかどうかを確認できるようになっている。メガン・カンカちゃん事件は、キム・ユンジちゃん事件と似たケースといえるだろう。

 韓国も7月末や8月には青少年を対象にした性犯罪者170人の身分・犯罪事実などが青少年保護委員会のホームページ(http://www.youth.go.kr)と政府中央庁舎をはじめ16の市・道の掲示板、官報などに公開される。国務総理直轄の青少年保護委員会(金聖二(キム・ソンイ)委員長)が今年4月23日に本会議を開き、青少年を対象にした性犯罪者としての身分公開審査対象である300人から170人を公開することを決定したためだ。

 同委員会は身分公開対象者に別途の文書を送り、身分公開の決定事実を知らせた後、該当犯罪者の姓名、生年月日、職業、住所(一部)などを公開するようになる。2000年7月1日から発効した「青少年の生保後に関する法律」は青少年を対象にした性犯罪行為を冒したものに対し、懲役刑や罰金刑など刑事処罰を加えることとは別に、刑が確定した者の身分を青少年保護委員会が公開できるように規定している。この法律が発効した2000年7月1日から12月末までに検挙された性犯罪者は3300人。このうち青少年を対象にした犯罪者は2300人で、ここに刑が確定した者は300人。青少年保護委員会は300人を対象に3回の審査を行い、最終的に170人を確定した。

 身分公開の対象者170人に対する性犯罪資料を分析した結果、犯罪のケース別には青少年対象にした強制わいせつ行為が35%(このうち77%が13歳未満への強制わいせつ)で最も多く、強姦28%、強姦未遂12%、営業的買売春斡旋・強要が9%となっている。犯罪者の職業別では無職2%、会社員19%、飲食業など自営業17%、単純労働9%。犯罪者の年齢別では30代が最も多く38%、20代28%、40代23%、50代8%、60代以上3%の順だった。

 子供誘拐殺人事件が起きるたびに、韓国の親たちは子供たちに約束させ、さらに約束させる。会社員の鄭某氏(37)は「キム・ユンジちゃん事件が起きてからいままで、朝と夕方に7歳の娘と4歳の息子に同じよう注意する。親の立場からはこれぐらいしか方法がないではないか」と答える。1995年、韓国性暴力相談所が受け付けた事例でみると、性暴行の被害者の95.4%は女性であり、加害者の99.4%は男性だ。男性の被害者は4.6%に過ぎないが、最近は男の子を対象にした性暴力も絶えず増加している。男の子だからといって安心できる状態ではないというわけだ。

 子供への性暴力の加害者は青少年(14~19歳)と成人が84.4%、被害者と知り合いの関係であるのが78%という結果が出ている。78%のうち「親族」(30.5%)を除けば、「同地区の者」(隣人、学校の近所の店)が27.2%で最も多い。親戚、教師、講師、文房具店、同じ地区のおじさん、アパート警備員など、子供を性暴力から保護し守ってあげるべき成人が逆に加害者となっている。脅しと暴力を除いた加害者が子供を誘拐する方法は「加害者が知っている人である場合」はおもちゃ、お小遣い、愛情を示してあげるという順であり、「知らない人」の場合はおもちゃ、親戚と偽る、質問するという順だ。2001年1~3月に韓国性暴力相談所が受け付けた相談事例を分析しても、ケースとその比率はほぼ変わっていない。

 韓国の性暴力発生率は世界第3位。しかし申告率は発生件数と比べると2.2%に過ぎない。親告罪に該当しない子供への性暴力での告訴率は19.2%だ。チェ・ヨンエ韓国性暴力相談所長は「隠そうとすることだけでも、青少年への性犯罪を増加させる要因となっている」と指摘する。チェ所長は1990年代中盤に、ある母親から電話で相談を受けたケースを紹介する。この事件は被害者が告訴をせず、マスコミが報道しなかったが、次のような内容だった。

 ある地区で夫の姉と男兄弟の妻が住んでいた。二人には小学校6年生の娘がそれぞれいたが、ある日夫の姉は自分の娘が隣の家に住む男性から性暴行を受けた事実を知った。衝撃を受けた夫の姉は、この事実を隠し誰にも知らせなかった。すると一週間後に、今度は男兄弟の妻の娘が同じ男性から性暴行を受けた。チェ所長は、「その時夫の姉が電話で悔し涙を流しながら、『自分が知らせておけば二度とこんな事件が起きなかったのに』と公開していました」と当時を振り返る。

●加害者の大部分は知り合い

 子供たちは性暴力犯罪において最も弱い位置にある。犯罪者が接近しやすく、また犯罪事実を隠しやすいためだ。被害者の母親がこの事実を知ったとしても、「通報すれば全部明らかにしてやる」と脅迫されれば、多くの親たちは通報を躊躇してしまう。

 チェ・ヨンエ韓国性暴力相談所長は、被害に遭った子供が経験する後遺症が深刻だと説明する。

 「心理的なものとしては初期には不安と恐怖、憤りと憂鬱などに苦しめられ、長期的には純血を失ったという気持ち、自暴自棄と精神分裂、男性嫌悪などが起きてきます。身体的には強姦と強制わいせつにかかわらず処女膜破裂と性病感染などがありますが、これは軽いわいせつ行為と言っても、子供たちには深刻な身体的損傷をもたらしえます。性的後遺症としては初期には性的遊びや性に執着する態度をみせますが、時間が過ぎれば性に対する嫌悪感や恐怖などを訴え、時には過度に性的好奇心が発達するという逆機能的なケースも出てきます。このような子供たちは、結局深刻な社会的後遺症をもたらし、健康に生活できなくなるのです」

●心理的・身体的後遺症は一生続く

 青少年保護委員会が170人の身分公開に踏み切ると、人権に対する論議が起こりうる。加害者を弁護する側では犯罪者も人権があると主張するだろう。チェ・ヨンエ韓国性暴力相談所長は「被害者と潜在的な被害者の人権がより重要であり、人権を蹂躙した者の人権をどうして保護しなければいけないのか」と疑問を呈する。性犯罪者はおもしろがって、あるいは魔が差した考えで犯罪を冒し、それに対する罪を償ったというかもしれない。だが、その被害者である子供は一生を後遺症を抱えながら生きていかなければならないという点に、青少年への性犯罪の深刻さがあるということだ。

 昨年下半期だけでも、検挙された青少年対象の性犯罪者は2300人あまり。これをみても、実際に検挙されていない性犯罪者は少なくとも1万人を超えるものと青少年保護委員会は推測している。いま、この瞬間にも、全国には1万にあまりの性犯罪者が姿を隠したまま犯罪対象者を探しているかもしれない。社会と家庭で第2、第3の犠牲者が出ないように立ち上がらなければ、「自分の子供」が被害者になるかもしれない切迫した状況に置かれているのだ。

◎金聖二(キム・ソンイ)青少年保護委員会委員長インタビュー

 「隣人の保護よりは社会教育的効果に期待」

 -身分の公開に踏み切った170人という数字があまりにも少ないのでは、という意見もあるが。

 「法務部から送付された名簿をすべて明らかにすべきではないのかということだが、実際にそうすれば手続きも簡単で社会的要求に応える側面もあるだろう。だが、今回の身分公開は社会的教育効果に期待しよう、ということだ。加害者がたとえ性犯罪者であっても、彼らにも人権がある以上、罪が軽い者を除いた。そのため数字が減ってしまった。身分を公開するという事実だけでも、心理的負担を与えることができるとの判断だ。170人も少ない数字ではないと思う」

 -顔が出ないのに、保護者はどのように子供を保護できるのか。

 「身分公開対象者に2、3回事前通告をしたために、本人たちもよほど注意すべきだと考えるだろう。また事実上、今回の行動だけでも社会活動に制約を与えられると思う。米国では隣人を保護する概念で法が施行されているが、われわれは社会教育用の性格が強い」

 -潜在的被害者の保護が差し迫った過大ではないのか。

 「住民を保護する動きは地方自治体や市民運動のレベルで展開される必要がある。16の市・道の掲示板に掲示するようにしたことは、まさに地方自治体の積極的な参加を促すためだった。事実、官報にだけ掲載すれば、中央政府的なレベルで留まってしまう可能性が高かった」

◎父母が知っておくべき「性暴力に対処する際の常識」

▲子供が性暴力を受けた時▲

①子供が被害事実を言えるようにする。

 子供を静かな場所に連れて行き、何があったのかを優しい言葉で聞く。このとき、子供の言葉を全面的に信じてあげ、叱ったり大声を上げたりしてはならない。もし子供が話したがらなければ、そのまま話をする時まで待ってあげることが重要。この時には「いますぐに話したくなければ、後で話してくれてもいいよ」といったような言葉をかけてあげる。

②子供を安心させる。

 子供に起きたことを話しすれば、温かく受け止めて、今後こんなことから守ってあげると言ってあげる。この時には「あの人がまた何かすれば、すぐにお母さんやお父さんに言ってね」と言う。

③子供を病院に連れて行く。

 子供を病院に連れて行き、外傷があるかどうか確認すべき。子供が病院に行き診察を受けることを嫌がれば、「お父さんやお母さんが、何の病気にかかっていなくても病気にかからないように予防注射をするでしょ。これと同じお医者さんから一度みてもらいましょうね」と言い聞かせる。

④警察に通報するかどうかを決定する。

 被害当時に子供が来ていた服(特に下着)を洗濯せずに保管しておく。これは警察に通報する時に重要な証拠物となりうる。

⑤専門の相談機関に知らせる。

 性暴力を受けた事実が衝撃的で事後処理が難しい場合、専門の相談機関に相談してみる。韓国性暴力相談所(02)576-5513、韓国女性の電話(02)263-6464、家族と性相談所(02)643-8424。

⑥子供の前で必要以上に心配する姿をみせてはならない。

 子供が性暴力を受けた後、両親や保護者は子供の前で必要以上に心配する態度をみせてはならない。もしそのような態度がみえれば、子供は自分が考えている以上に深刻な問題が自分に発生したと考え、萎縮する可能性があるため。

⑦子供の前で加害者に対する非難はすべきではない。

 加害者が日頃知っている者である場合、子供がみている前で加害者に対するひどい言葉(「当然、監獄に行くべきだ」といったような)は控えるのがよい。子供が告げ口をした、といった罪悪感を持ちうるため。間違いは加害者にあるということを注意深く教えてあげつつも、「そのおじさんがしたことは悪いこと。そのおじさんが他の人にもまたそんなことをしないように自分たちが注意しなきゃね」といった言葉をかけるべきだろう。

⑧小児精神科医と会う。

 もし事件後に子供が普段にはしないような行動をしたり、不安と恐ろしさを感じているようであれば、小児精神科の治療を受けてみるとよい。そうでなくても、小児精神科に連れて行き相談を受けるのが後遺症を最小化するのに助けになる。

●●子供への性暴力を予防する心得(父母用)●●

①子供と性暴力について話をすべき。

 下着を付けた人形をみせながら、あるいは実際に子供が下着を付けた時に、「服の下の自分の体は大切な所だから、他の人がさわっちゃだめ」と言ってあげる。

②誰かが望んでいない、または不快に思う接触をしようとする時に「だめ、嫌い!」と言えるように教えてあげる。

③子供に加害者が「自分たちだけの秘密。誰にも話したらだめ」、あるいは「言えば殺す」と脅迫する場合があることを教えてあげ、「嫌だ、秘密にしないよ」と言うように注意する。

④子供に「あなたにどんなことがあっても最後まで守ってあげるから、恥ずかしがったり怖がったりせずにいつでも話しなさい」と教えてあげる。

⑤見知らぬ人と一人で車に乗ってはいけないと教えてあげる。

⑥どこか外出する時には必ず両親などに誰と一緒に行くのか言わせるようにする。

⑦家に一人でいる時には、誰かが来てもドアを開けてはならないと教えてあげる。

⑧公衆トイレに行ったりエレベーターに乗る時には友達や大人と一緒に行くように教えてあげる。

⑨子供が一人いる時には危険な状況が起きないように、すぐに連絡できる場所の電話番号を教えておく。

-韓国性暴力相談所-

(『週刊朝鮮』2001年6月14日号)

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

このページのトップに戻る